実験目的
X線CTの精度評価のための撮影実験において、定性的にも定量的にも長時間のCT撮影においてボケが生じ画質が低下していることを確認することができました。本実験ではCT撮影は行わず、60分間1分間隔で目印の透視撮影を行うことで、どの程度焦点が変動しているかを定量的に調べることを目的としています。
透視撮影:台座を動かさずに1方向からX線を照射し撮影を行うもので、レントゲン撮影のような画像が得られます。
実験方法
本実験では以下の2つの目印を使って焦点の変動を調べます。ターゲットAは真鍮製の板に銅線を交差するように配置したもので、ターゲットBはアクリル製の樹脂に同様に銅線を配置したものです。
ターゲットAはX線管のベリリウム窓に直接貼り付け、X線管内で起きている変動を計測します。一方ターゲットBはステージの上に置くことで焦点のブレ以外にも台座やCT装置自体の歪みによる変動も計測します。それぞれを以下のように配置します。また、本実験では温度変化が問題になっていると考えられるので、ターゲットAの表面温度とターゲットB付近の雰囲気温度を計測します。
また、焦点のブレはエージングを行った直後に大きくなることが考えられるので、エージング直後とエージング数時間後の2つの条件で撮影を行いました。撮影条件はそれぞれ管電圧130Kvで管電流は20mAです。幾何学的拡大率は27.8倍で撮影を行いました。それぞれを1分間隔で60分撮影を行った結果を画像解析し変動を調べます。
エージング:CT装置の電源を付けた直後に行われるもので、X線管球のフィラメントの寿命を延ばすための暖機運転のようなものである。具体的には管電圧、管電流を徐々に上げて最大の線量になるまでX線を発生させています。通常10~15分かかります。
幾何学的拡大率:CT撮影を行う時の倍率のこと。被写体から焦点までの距離と検出器から焦点までの距離の関係で決まります。被写体が焦点に近いほど大きくなります。
解析方法
2つのターゲットを同時撮影すると下図のように2つのターゲットを同時撮影した透視画像を得ることができます。60枚の画像に対して同じ処理を行い、銅線で囲まれた部分の重心を求めていきます。
- 探索する領域を決定する
- 領域内で閾値以下の画素を探索する
- 閾値以下の画素とそれ以外で2値化する
- 2値化した領域の重心の座標を求める
public static void searchGravity(){ double sumGravityX; double sumGravityY; double gravityX; //重心のX座標 double gravityY; //重心のY座標 int cnt = 0; //探索する領域を順番に調べていく(場合に応じて調節) for(int i = 0; i < 640; i++){ for(int j = 0; j < 480; j++){ //注目した画素が閾値以下の場合 if(rawData[i+j*640] < 30000){ sumGravityX += j; sumGravityY += i; cnt++; } } } //重心の座標を求める gravityX = sumGravityX / cnt; gravityY = sunGravityY / cnt; }
実験結果
まずは測定した温度変化についてです。2地点の温度変化を時系列に示しています。
温度変化はエージング直後の実験を行った場合は、ターゲットAの表面温度も台座付近の雰囲気温度も変化が大きくなりました。どちらも温度は上がり続けることがわかりました。
次にそれぞれのターゲットの変動についてです。それぞれの条件でX線管に貼り付けたターゲットAと台座の上に乗せたターゲットBの変動について調べています。
X線管に貼り付けたターゲットAはエージング直後でも数時間後でも同程度の変動をしていたことが分かりました。その一方で台座に乗せたターゲットBではエージング直後に大きく変動していたことが分かりました。このことから温度変化による影響を受けやすいのは台座にターゲットを乗せた場合でした。以上のことから焦点のブレよりも、撮影中の台座の変動や、CT装置自体の歪みなどが長時間撮影による画質低下の主因になっていることが考えられます。
焦点の移動による画質低下が起きている可能性は低いことから今後は台座の変動も含めた撮影中の機器の歪みによる画質低下を補正する方法を考えていきたいと思います。